
この記事にたどり着いた方の中には「研修の効果がなかなか見えづらい」「育成の課題がどこにあるのか特定しにくい」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これらの課題を解決し、育成のプロセスをより効果的に進めるための方法のひとつとして、フレームワークの活用があります。人材育成にフレームワークの思考を取り入れることで、経験や勘に頼りがちな育成に論理的な視点を加えることができます。
本記事では、人材育成の現場で活かせる実践的な8つのフレームワークをご紹介します。合わせて、これらを活用して育成計画を組み立てる具体的な5つのステップについても詳しく解説します。
人材育成のためのフレームワークとは、主に自社の現状や課題を客観的に分析・把握したり、人材育成計画や目標を決めるための情報整理に使う枠組みのことです。
フレームワークを活用することで、ゼロから人材育成の施策を考えるよりも、成功パターンをもとにしたフレームワークを活用することで、効率的に進められる可能性が高まります。
人材育成にフレームワークを取り入れることで、以下のようなメリットが期待できます。
1. 育成施策の効率化
課題に直面したとき、フレームワークを利用することで悩む時間を短縮でき、かつ効率的に課題解決への施策を打ち出すことができます。現在抱えている課題に対して「どのアプローチが有効か」が判断しやすくなるため、育成ゴールに向けた段階的なステップを迷いなく設計でき、計画立案から実行までのプロセスがスムーズになります。
2. 組織内での共通理解の形成
グループで業務を行う時に共通のフレームワークを使うことで、共通の目的意識・目標を持つことができます。部署や役職を超えて人材育成について議論する際にも、フレームワークが共通言語として機能します。
4. 再現性の高い育成体制の構築
フレームワークは成功パターンとして確率しているため、活用により効率性を高め、特定の担当者に依存せず再現性を担保することが可能です。担当者が変わっても、一定水準の人材育成を継続できる体制を整えられます。
課題分析から効果測定まで、人材育成で活用が期待できる8つのフレームワークを解説します。
HPIは、「望ましい成果」と「現状」のギャップを埋めるために、パフォーマンス低下の根本原因を特定し、最適な解決策を導き出す手法のことです。「成果が出ない=研修不足(個人の能力不足)」と安易に決めつけるのではなく、組織の仕組みや環境を含めた広い視点で分析するのが特徴です。「能力不足」なのか「環境要因」なのか、課題の本質を見極めることで、適切な育成施策を設計できます。
活用場面
具体的な分析項目
HPIを活用することで、研修だけに頼るのではなく、課題の本質を踏まえた最適な施策を選択できるようになります。

カッツモデルは、マネジメント層に求められるスキルを3つに分類し、階層ごとの重要度を示したフレームワークです。リーダー層には業務遂行能力が重要である一方、役職が上がるにつれて対人関係能力、抽象化能力や経営的視点がより重要になるという考え方をしています。このフレームワークを活用することで、「今のポジションで何を磨くべきか」「次のステップで何が求められるか」が明確になります。
活用場面
これらの場面でカッツモデルを活用することで、自社のマネジメント層に必要なスキルを整理し、計画的・戦略的な人材育成を進めやすくなります。

カークパトリックモデルは、研修効果を測定するための4段階評価フレームワークです。多くの企業では研修後のアンケート(満足度)だけで評価が終わってしまいがちですが、このフレームワークでは「参加者の反応」から「実際の行動変容」、さらに「組織の業績への影響」まで、段階的に深く効果を検証します。研修投資の妥当性を説明する際や、継続的な改善を行う際に非常に有効です。
活用場面
4つの評価レベルと測定方法
レベル1:反応(Reaction) 研修に対する受講者の満足度や反応を測定します。
例)測定方法:研修後アンケート、満足度調査、自由記述コメント
レベル2:学習(Learning) 受講者が研修内容をどの程度理解・習得したかを測定します。
例)測定方法:理解度テスト、ロールプレイ評価、レポート課題、実技試験
レベル3:行動(Behavior) 研修後に職場で学んだ内容を実践できているかを測定します。
例)測定方法:上司・同僚による行動観察、360度評価、実務での適用状況チェック
レベル4:結果(Results) 研修が組織の業績や目標達成にどの程度貢献したかを測定します。
例)測定方法:売上高、生産性、離職率、顧客満足度などの業績指標
カークパトリックモデルを活用することで、研修の効果を多角的に検証し、継続的な改善につなげることができます。

70:20:10の法則は、人の成長において「70%が実際の経験」「20%が他者からのフィードバック・指導(薫陶)」「10%が形式的な研修」という割合が効果的な学習方法であるという考え方です。下記図が示すように、学びの大部分である70%は日常業務を通じた実践経験から得られ、知識が行動に結びつき、実践的なスキルとして定着していきます。そして20%のフィードバックを先輩や仲間から受けることで、他者の視点や経験を取り入れ、自分だけでは気づけなかった改善点や新たな視点を獲得できます。残り10%の研修や自己学習は基礎知識の習得に有効ですが、それだけでは実践力は身につきません。この3つの要素を組み合わせることで視野が広がり、研修で得た知識を実務で活かせます。この法則は、新入社員から管理職までが成長できる学習環境を整えることができるでしょう。
活用場面
学習の黄金比率
70%:経験学習 実際の業務経験や挑戦的な課題への取り組み
例)新規プロジェクトへの参画、ストレッチアサインメント、業務ローテーション
20%:他者からの学び 上司や先輩からのフィードバック、コーチング
例)メンター制度、先輩社員による業務指導
10%:研修・自己学習 集合研修やeラーニングなどの学習
例)階層別研修、専門スキル研修、オンライン学習、読書
この法則は、研修だけに頼らず、現場での実践機会や上司・先輩のサポート体制まで含めた、育成設計の重要性を示しています。
氷山モデルは、人の能力や行動特性を3層構造で捉えるフレームワークです。海に浮かぶ氷山の大部分が水面下に隠れているように、人の能力も目に見える「行動」は一部に過ぎず、その背後には「知識・スキル」、さらに深層には「価値観・動機」が存在します。表面的な行動だけを改善しようとしても、根底にある価値観やマインドセットが変わらなければ持続的な成長は難しいという考え方を示しています。
活用場面
3層構造の理解
水面上(可視領域)/行動
実際に観察できる業務上の行動や成果
例)プレゼンテーション、報告書作成、営業活動、マネジメント行動
水面下(半可視領域)/知識・スキル
行動を支える専門知識や技術、ノウハウ
例)業界知識、分析手法、コミュニケーションスキル、PCスキル
水面下(不可視領域)/マインド・価値観
行動の根底にある考え方、信念、動機づけ
例)主体性、責任感、顧客志向、成長意欲、組織への帰属意識
普段認識しているのは、表面上の行動です。しかし、何らかの成果や求められる行動を体現するには、その前提として持つべき知識・スキルやマインドが必要となります。
そのため、氷山モデルを活用することで、表面的なスキル研修だけでなく、マインドセットの醸成まで含めた本質的な育成計画を立てることができるでしょう。
SMARTの法則は、効果的な目標設定のための5つの基準を示したフレームワークです。「売上を上げる」「スキルアップする」といった曖昧な目標ではなく、具体的で測定可能、かつ達成可能な目標を設定することで、行動に移しやすくなり、達成率が向上します。一般的に広く活用されている、最も実践的なフレームワークの一つです。主に目標管理制度(MBO)やプロジェクトマネジメントに活用されています。
活用場面
5つの基準
SMARTの法則とは、より意味のある目標にするための指標です。
S(Specific)具体的である
「営業力を高める」ではなく「新規顧客へのアプローチ手法を習得する」など、明確な内容にします。
M(Measurable)測定可能である
達成度を数値や行動で測定できる目標にします。
A(Achievable/Attractive)達成可能である
達成可能であり、魅力的である 高すぎず低すぎず、挑戦意欲を引き出せる目標にします。
R(Relevant)関連性がある
組織目標や個人のキャリアと整合性のある目標にします。
T(Time-bound)期限が明確である
「いつまでに」を明確にすることで、計画的な取り組みを促します。
SMARTの法則に沿った目標を立てることで、目標に向けて努力しやすくなります。

経験学習サイクルは、経験を通じた学習プロセスを4段階で示したフレームワークです。人は単に経験を積むだけでは成長せず、「経験→振り返り→概念化→実験」という循環を意識的に回すことで、経験が確実な学びに変わるという考え方です。多くの企業では経験学習の機会は提供されているものの、振り返りや次の行動への接続が不足しているため、このサイクルを意識した育成設計が重要になります。
活用場面
4つのステップと具体的な実践方法
1. 具体的経験(Concrete Experience) 実際に業務や課題に取り組み、経験を積みます。
例)新規プロジェクトへの参加、顧客対応、プレゼンテーション実施
2. 内省的観察(Reflective Observation) 経験を振り返り、何が起きたのか、なぜそうなったのかを考察します。
例)振り返りシートの記入、上司との対話、日報での気づきの言語化
3. 抽象的概念化(Abstract Conceptualization) 振り返りから法則性やパターンを見出し、自分なりの理論や仮説を構築します。
例)「次回は〇〇すればうまくいく」という仮説立て、成功パターンの言語化
4. 能動的実験(Active Experimentation) 新たな理論や仮説をもとに、次の行動計画を立て、実践します。
例)改善策の実行、新しいアプローチの試行、PDCAの次のサイクルへ
このサイクルを意識的に回すことで、経験が単なる「やりっぱなし」にならず、確実な成長につながります。研修後の振り返りなどで、このサイクルを促進できます。
学習目標を認知レベルに応じて6段階に分類するフレームワークです。学習には「記憶→理解→応用→分析→評価→創造」という段階があり、下位レベルの習得なしに上位レベルに到達することは難しいという考えから、段階を踏む重要性を示すフレームワークです。このフレームワークを活用することで、社員の現在地を把握し、無理のない段階的な目標設定ができるため、研修設計やカリキュラム開発の現場で広く活用されています。
活用場面
営業職を例とした6つの認知レベルと具体例
1. 記憶(Remember) 基本的な情報や概念を記憶し、思い出すことができる。
例)「製品の基本機能を列挙できる」
2. 理解(Understand) 情報の意味を説明したり、要約したりできる。
例)「顧客のニーズを自分の言葉で説明できる」
3. 応用(Apply) 学んだ知識を新しい状況で使用できる。
例)「学んだ交渉術を実際の商談で活用できる」
4. 分析(Analyze) 情報を構成要素に分解し、関係性を理解できる。
例)「顧客の課題を要素分解できる」
5. 評価(Evaluate) 基準に基づいて判断し、価値を見極めることができる。
例)「複数の施策案を評価し、最適解を選択できる」「部下の提案の妥当性を判断できる」
6. 創造(Create) 要素を組み合わせて新しいものを生み出すことができる。
例)「新規事業のアイデアを立案できる」「独自の営業手法を開発できる」
このフレームワークを活用することで、新入社員には「記憶」「理解」レベルの目標を、中堅社員には「応用」「分析」レベルの目標を、マネージャーには「評価」「創造」レベルの目標を設定するなど、段階的な育成計画を設計できます。
フレームワーク | 主な用途 | 活用フェーズ | 難易度 | 期待できる効果 |
HPI | 課題分析 | 計画立案前 | ★★☆ | 育成課題の本質を見抜き、適切な施策を選択できる |
カッツモデル | スキル定義 | 計画立案 | ★☆☆ | 階層別に必要なスキルを明確化し、研修設計ができる |
カークパトリックモデル | 効果測定 | 実行後 | ★★★ | 研修効果を多角的に検証し、継続的改善ができる |
70:20:10の法則 | 学習配分設計 | 計画立案 | ★☆☆ | バランスの取れた育成施策を設計できる |
氷山モデル | 能力の可視化 | 計画立案 | ★★☆ | 表面的でない本質的な育成計画を立案できる |
SMARTの法則 | 目標設定 | 実行時 | ★☆☆ | 具体的で測定可能な目標を設定し、達成率を高められる |
コルブの経験学習サイクル | 学びの定着 | 実行中・実行後 | ★★☆ | 経験を確実な成長につなげ、学習効果を最大化できる |
思考の6段階フレームワーク | 学習目標設計 | 計画立案 | ★★☆ | 段階的な目標設定により、無理のない成長を促せる |
※難易度の目安
★☆☆:導入しやすく、すぐに実践できる
★★☆:理解に少し時間がかかるが、効果が高い
★★★:測定や検証に工夫が必要だが、影響が大きい
複数のフレームワークを組み合わせ、育成計画の立案から実行、評価までを一貫して進める具体的なステップを解説します。
経営層と連携し、カッツモデルを活用して「理想の人材像」と「各階層のあるべきスキル」を明確に定義します。この定義が、すべての育成施策の土台になると考えられます。
定義された理想像に対し、現状の社員のパフォーマンスとのギャップを特定します。この際、HPIを活用し、ギャップの原因が「本当にスキル不足(研修不足)なのか」それとも「制度や環境の問題なのか」という課題の本質を深く分析することが重要でしょう。
課題の解決に必要な施策(研修、OJT、フィードバック)を策定します。70:20:10の法則を適用し、OJTを中心とした実践的な学習配分を決定することで、現場での即戦力化を目指すことが可能になります。
計画を実行に移す際、社員一人ひとりの具体的な行動目標をSMARTの法則に基づいて設定します。曖昧な目標を排除し、誰でも達成度を客観的に測定できる状態にすることが、施策成功の鍵となるでしょう。
施策実施後、カークパトリックモデルを用いて効果を測定します。レベル1(満足度)だけでなく、レベル3(行動変容)やレベル4(事業成果)の測定結果を基にPDCAサイクルを回し、次期計画に反映させることが重要だと考えられます。
フレームワークは強力なツールですが、使い方を誤ると期待した効果が得られない可能性もあります。ここでは、活用する際の注意点をご紹介します。
フレームワークは、実際の業務の中で試しながら活用していくことで、初めて効果や使い勝手が見えてきます。最初から思うような成果が出ないからといってすぐにやめてしまうのではなく、自社の文化や組織の成熟度、社員の特性に合わせて調整しながら使うことが大切です。
また、フレームワークは課題解決のための「ひとつの手段」にすぎず、マニュアルのようにそのまま当てはめれば必ず成功するものではありません。実践のなかで得られた気づきやフィードバックをもとに、取り入れる部分・変える部分を見極め、必要に応じてカスタマイズしていく柔軟さが求められます。
フレームワークを導入する際は、「なぜこの育成を行うのか」「最終的にどのような人材像・経営目標を目指すのか」という目的を常に明確にしておくことが重要です。フレームワークそのものを使うことが目的化してしまうと、本来の人材育成の狙いから外れてしまいます。
現場と連携しながら、経営目標の達成や理想の人材像の実現というゴールを繰り返し確認し、施策が形骸化しないようにすることがポイントです。「企業や顧客、社会に貢献できる人材を育てる」という、自社なりの人材育成の目的やゴールを軸として持ち続けることで、フレームワークもより効果的に機能します。
人材育成は短期間で劇的な変化を求めるものではなく、中長期的に取り組むべきテーマです。新しい役割や業務に挑戦する過程では、失敗や試行錯誤が避けられませんが、それを責めるのではなく、学びの機会として捉える文化づくりが重要です。
また、同じ育成施策であっても、成果が出るスピードや成長の度合いには個人差があります。一律の尺度だけで判断するのではなく、一人ひとりのペースや変化を丁寧に見ていく姿勢が求められます。さらに、事業環境や働き方を取り巻く状況は常に変化しているため、育成計画やフレームワークの適用方法も定期的に見直し、環境変化に合わせてアップデートしていくことが大切です。
フレームワークとはガイドラインや共通の考え方、枠組みを指すもので、成功パターンやモデルをもとにしています。そのため、フレームワークを活用することで効率良く人材育成を進められるでしょう。ただし、フレームワークはあくまで手段です。自社の実情に合わせて柔軟に活用し、経営目標の達成という本来の目的を常に意識することが、人材育成の課題解決のポイントとなります。人材育成で活用するフレームワークは、必ずしも1種類だけを選ぶ必要はありません。自社の課題に合ったフレームワークを選び、人材育成の課題解決策のひとつとして実践してみてください。