
人材育成マネジメントは、社員一人ひとりの可能性を引き出し、組織全体の成長につなげるための重要な取り組みです。人材育成の重要性は認識していても、「具体的にどうマネジメントに落とし込むか」という実践の壁に直面している企業は多いのではないでしょうか。本記事では、人材育成を成功させるためにマネジメント層に必要なスキル11選を具体的に解説します。

人材育成マネジメントとは、組織の目標達成に向けて、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、継続的に成長させるための計画的な取り組みです。単なる研修の実施や指導にとどまらず、個々の強みを活かしながら、組織全体のパフォーマンス向上につなげる戦略的なアプローチを指します。
人材育成におけるマネジメントの役割は、時代とともに変化しており、従来は「指示・管理・統制」が中心でしたが、現代では「育成・支援・促進」へシフトしている傾向がみられます。 例えば、社員の自律的な成長を促すコーチングや社員のモチベーションを高める支援的なマネジメントが重要視されるようになってきています。
人材育成マネジメントが組織にもたらす効果を、3つ解説します。
マネジメント層が育成スキルを習得し、それを日々の業務で実践することで、社員のスキル向上が促されます。さらに個人のパフォーマンス向上だけでなく、企業全体の人材マネジメントの向上が見込まれるため生産性が高まるでしょう。
そして、効果的な育成を受けた社員が成長し、将来のマネジメント層へとつながっていくことで、育成スキルが組織内で連鎖するサイクルが生まれます。この持続的な人材育成サイクルが機能することで、市場の変化に柔軟に対応できるでしょう。結果として、企業は長期的な市場での安定を実現し、競合他社との競争力強化につながるでしょう。
自身の成長を実感できる環境は、社員の仕事への意欲を高めます。 さらに、明確なキャリアパスと企業からの成長支援を感じることで、社員の組織に対する信頼と帰属意識が深まります。 これにより、離職率が低下し、社員一人ひとりがより高いパフォーマンスを発揮することが可能になります。
計画的な人材育成を進めることで、企業は将来の成長を引っ張っていくリーダーや幹部候補を計画的に育てられます。この育成によって、組織全体で問題を見つけ、分析し、決断する力(マネジメント能力)が高まります。さらに、意思決定がトップ層だけに偏るのを防ぎ、権限と責任を現場に近いマネジメント層に分け与えることができるようになりますにます。その結果、環境が変わった時にも素早く、適切な判断を下せるようになります。
人材育成マネジメントを阻む要因
ここでは、マネジメント層のスキル不足やリソースの制約といった、実践を阻んでいる主な要因を見ていきましょう。
マネジメント層が日常の業務や進捗管理に追われ、「人材育成に時間を割けない」という課題は根強く存在します。これに加えて、「研修予算が限られている」といったリソース(時間・予算)の制約も大きな課題です。
さらに深刻なのは、育成を成功させるための仕組みや戦略の不足です。例えば、「育成の目的が曖昧」「育成のための適切なプログラムがない」といった点が該当し、スキル習得の努力やリソースを投下しても効果が出にくい状況を生み出しています。
これらの課題を解決するには、マネジメント層が持つべきスキルを明確にし、そのスキルを効率的に習得できるようにしたり、スキル習得を評価する仕組みなどを構築することが重要になります。仕組みについては「人材育成マネジメント成功のポイント」の章で詳しく解説致します。
マネジメント層は、社員育成の重要性は理解しているものの、 「どう指導すれば成長につながるのかわからない」という具体的なスキル不足が、育成の課題となることがあります。
例えば、管理職が部下のモチベーションが下がっている理由を聞き出せず、ただ「やる気が足りない」と精神論で済ませてしまったり、具体的な改善策ではなく「もっと頑張れ」といった抽象的な指示しか出せないといった問題です。このようなスキル不足が課題となっています。
次の章では、これらの課題を乗り越えるために不可欠なマネジメントスキルについて具体的に解説していきます。
マネジメント層が身につけるべき具体的なスキルを、
戦略、チーム管理、実行・改善の3つの側面から、11個に分けてご紹介します。
I. 戦略・目標設定
①目標設定スキル(経営戦略との連携)
企業の経営戦略と連動した育成目標を、具体的かつ測定可能な形で設定する能力です。
育成目標は、社員にとって単なるノルマではなく、日々の業務における「判断基準」と「行動指針」となります。何を優先し、どこに力を注ぐべきかが明確になることで、迷わず行動に移せるようになります。
②計画力・スケジュール管理能力
設定した目標を達成するために、「チームメンバーに何を、どう教えるか」をはっきり決め、そのスキルを確実に身につけさせるための育成の流れを設計・実行する能力です。
育成計画では、身につけさせるスキルと具体的な教え方(OJT、研修など)を定義し、いつまでに誰が責任を持つかなどを明確にします。育成のムダをなくし、効果的に成果を出すために必要なスキルといえます。スケジュールは余裕を持たせ、マネジメント層と社員の双方の負担を考慮するとよりよいでしょう。
③ロジカルシンキング(論理的思考力)
育成課題や、社員のパフォーマンスが伸び悩む原因を論理的に分析し、感情論ではなく事実に基づいた解決策を導き出す能力です。
例えば、目標達成に至らない問題が起きた際、原因を追及し「業務プロセスのどこに構造的なムダがあるのか」「求められるスキルが本当に不足しているのか」などといった、短期的な結論を出さず、本質的な原因を明確に特定します。この論理的な思考力によって、経験や感覚に頼りがちな育成を脱却し、効果が証明できる具体的な解決策を打てるようになります。
④リーダーシップ(統率力)
組織やチームを目標達成に向けて統率し、メンバーの行動を促す力です。自身の模範的な姿勢を示すとともに、目標達成のビジョンを共有することが、チームの士気を高めます。一方的な指示にならないよう、社員の意見も取り入れるよう意識するとよいでしょう。
⑤コミュニケーションスキル (明確な指示と信頼構築)
明確な指示や意図を伝える能力に加え、社員がミスや懸念を隠さずに話せる信頼関係を築く傾聴の意識が重要です。まずは、指示や指導だけでなく、社員の状況を把握し、信頼に基づく対話をするための時間を意識的に設けることが望ましいでしょう。
⑥コーチングスキル(自主性の促進)
問いかけを通じて、社員が自主的に気づきや成長することを促す能力です。安易に答えを与えるのではなく、質問を通じて社員の思考プロセスを深めることが、自律性を育みます。
⑦フィードバックスキル(ポジティブ/ネガティブの使い分け)
成長につながる具体的な改善点と良い点を効果的に伝える能力です。「行動」に焦点を当て、具体的な事象に基づいてフィードバックを行うことが、次の行動変容につながります。
⑧フォロースキル
社員が困難に直面した際に適切なサポートを提供する力です。過度な介入もせず、かといって放置もせず、社員の状態を見極めながら必要なタイミングで手を差し伸べる判断力が求められます。
⑨意思決定力
限られた情報と時間の中で、最適な判断を下す能力です。育成方針の決定、育成手法の選択、リソース配分など、様々な場面で迅速かつ適切な意思決定が期待されます。また、環境変化に応じて、過去の事例に囚われずに柔軟に判断することが求められます。
⑩状況把握力(現状分析、進捗モニタリング)
社員の成長状況やチームの状態を客観的に把握する力です。定量データと定性情報の両面から現状を分析し、必要に応じて育成計画を調整する柔軟性が重要といえます。
⑪人材評価・アセスメントスキル
社員の能力や適性を公平かつ正確に評価する能力です。現在の実力だけでなく、潜在能力や成長意欲も見極め、一人ひとりに適した育成アプローチを設計できるようになることが求められます。
人材育成マネジメントに必要な11のスキル一覧と活用ポイント
カテゴリー | スキル | 活用事例 | 留意点 |
I. 戦略・目標設定 | 目標設定スキル | 具体的かつ測定可能な目標を設定する | 経営戦略と紐づけ、具体的な目標設定を避ける |
計画力・スケジュール管理能力 | 身につけさせるスキルと具体的な教え方(OJT、研修など)を定義し、いつまでに誰が責任を持つかなどを明確にする | スケジュールは余裕を持たせ、指導者と社員の双方の負担を考慮する | |
ロジカルシンキング | 課題発生時、感情論ではなく事実に基づき真因を特定する | 短絡的な結論を出さず、多角的な視点から原因を深掘りする | |
II. 人・チームの管理 | リーダーシップ | 自身の模範的な行動で、目標達成のビジョンをチームに共有する | 一方的な指示ではなく、社員の意見を尊重を意識する |
コミュニケーションスキル | 社員が話しやすい雰囲気作りを意識し、傾聴の時間を確保する | 意図的な雑談も活用し、信頼関係の構築を図る | |
コーチングスキル | 「あなたはどうしたいか?」といった質問を通じて思考を促す | 質問攻めにならないよう、社員が自分で考える時間を確保する | |
フィードバックスキル | 「先日の〇〇のプレゼンは特に資料が良かった」など具体的な行動を伝える | 行動(What)に焦点を当て、人格(Who)を否定しない | |
フォロースキル | チベーションの変化や悩みに耳を傾ける | 監視ではなく、あくまで支援者としての姿勢を維持する | |
III. 実行・改善・意思決定 | 意思決定力 | 育成投資の優先順位や、外部研修導入の可否を迅速に判断する | 環境変化に応じて、柔軟に判断し、過去の経験に固執しない |
状況把握力 | 育成データを定量的に把握しつつ、状況に応じて適切な指示やアドバイスをする | データだけでなく、社員との対話からも状況を把握する | |
人材評価・アセスメントスキル | 評価基準を透明化し、評価者によるバラつきを最小限に抑える | 評価結果は処罰ではなく次なる成長への動機づけに活用する |
ここからは、身につけたスキルを活かして実際に育成を実行するための具体的な手法として、解説します。
OJT(On-the-Job Training)
日常業務を通して、上司や先輩が直接指導や助言を行う手法です。実務に直結したスキルを効率的に習得できる点が強みとなりますが、指導者の育成スキルや指導時間の確保が重要になります。
メンター制度
部署や業務を越えた先輩社員(メンター)が、後輩社員(メンティ)の精神的なサポートやキャリア形成に関する助言を行う制度です。信頼に基づく対話環境の構築や、組織への定着促進に役立つことが期待されます。
1on1ミーティング
上司と社員が定期的に一対一で行う対話の時間です。業務の進捗管理だけでなく、社員のキャリア、スキル、精神面での課題など内発的なテーマを深く掘り下げることで、コーチングやフィードバックを効果的に実践する機会となります。
チャレンジングな役割付与(ストレッチアサインメント)
社員の現在の能力レベルよりもあえて少し難易度の高い仕事や役割を意図的に任せる手法です。適度なプレッシャーの中で能力を最大限に引き出し、飛躍的な成長を促すとともに、自己の可能性を広げる機会を提供します。
MBO(目標管理制度)
MBOは、社員自らが目標を設定し、その達成度で評価を行う制度です。育成マネジメントにおいては、目標設定を社員の能力開発の機会と捉え、上司がその達成を支援・コーチングしていくツールとして活用できるでしょう。
職場外での育成
OFF-JT(Off-the-Job Training)
集合研修、外部セミナー、通信教育など、職場を離れて専門的な知識やスキルを学ぶ手法です。自社のリソースだけでは補えない知識習得に適しています。
自己啓発
社員自身が仕事に必要な能力や知識を、自主的に高めていく活動です。
これは、社員が自発的に行う資格取得のための学習、外部ビジネススクールへの通学、専門書籍の購入などが該当します。企業が費用補助や資格取得時の報奨金、eラーニングコンテンツの提供などで支援することで、社員の「学びたい」という内発的な成長意欲を最大限に引き出し、組織全体の知識レベルの底上げを図ることができます。
eラーニング
eラーニングは、時間や場所の制約なく、全社員に対して均一な教育コンテンツを提供できる手法です。知識やスキルのインプットを効率的に行うことが期待できます。
これらの多様な実践手法を、企業の具体的な課題や目標達成に必要な人材像に合わせて、どのように組み合わせていくのかが重要になります。次章では、目標設定から実行、改善まで、これら全ての手法を統合するための具体的な進め方について解説します。
実践手法の理解を踏まえ、育成マネジメントを組織に実装・運用していくための具体的な5つのステップについて解説します。
まずは、「組織として、現在どのような課題を抱えているのか」「3年後、5年後にどのような組織・人材像を目指したいのか」を明確にします。この理想像は、経営戦略と連携していることが望ましいでしょう。
理想像と現状のギャップを埋めるため、「いつまでに」「何を」「どのレベルまで」達成するのかを具体的かつ定量的に設定します。スキルレベルや行動指標など、測定可能な目標を設定することが重要です。
目標達成に必要なスキル・知識を特定し、OJT、OFF-JT、eラーニングなどの手法を組み合わせた具体的な育成プログラムを設計します。指導担当者の選定や、必要なリソース(予算、時間)の確保もここで行います。
立案した計画を社員本人と共有し、目標に対する納得感と主体性を引き出します。実行の前には、計画の実行に必要な現場の指導担当者(トレーナーや先輩社員など)に対しても、目標と育成の進め方を丁寧に共有し、協力体制を依頼する必要があります。この現場の理解と連携体制を得て、計画に基づいて日々の業務指導や研修を実施します。
育成の進捗状況を定期的にモニタリングし、目標に対する達成度や育成プログラムの効果などを確認したうえで、率直なフィードバックを行います。計画通りに進んでいない場合は、原因を分析し、目標や計画の見直しを行う(PDCAサイクルを回す)ことが重要です。
人材育成のマネジメントにおいて、持続的な成果へとつなげるために意識すべきポイントを解説します。

育成活動が「何のため」に行われているのか、その最終的な目的を明確にし、企業の経営戦略達成にどのように貢献するのかを常に意識することが、活動のブレを防ぎ、投資対効果を高めることにつながると考えられます。
一方的な指示や命令による育成ではなく、社員自身の「成長したい」という内発的な意欲を尊重し、自主的な行動を促すことが、より大きな成長と成果につながる可能性を高めます。コーチングスキルが特に重要になる局面と言えるでしょう。
フィードバックは、社員の成長に重要な要素です。実践にあたっては、「行動」に焦点を当て、「人格」を否定しないことが基本です。また、定期的に、具体的な事象に基づいてポジティブな面と改善点を伝えることで、社員は次に取るべき行動を明確に把握し、成長を加速させることができるでしょう。
育成の結果としての成長や貢献を、公正かつ透明性の高い評価体制で認めることが、社員のモチベーション維持には必要となります。評価とフィードバックが、次の育成ステップにつながるように設計されていることが望ましいでしょう。
人材育成マネジメントは、企業の持続的な成長を実現するための戦略的な取り組みです。社員の成長は、マネジメント層自身の成長でもあります。マネジメント層は必須スキルを習得し、社員の自主性を引き出す対話(コミュニケーション)を実践することがポイントです。マネジメント体制の構築と、マネジメント層自身の進化こそが企業の成長へとつながるでしょう。
自律的な成長を促すためには、企業は最大のパフォーマンスを引き出す環境づくりを整える必要があります。そのためには、能力ギャップを埋める仕組みと、リソース・時間確保のフォロー体制が重要となるでしょう。
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